勤務医から開業医に変わって一番大きな変化は、雇われる立場から雇う立場になること
です。初めて経験する立場の違いから起きる職員との軋轢で、開業時、ほとんどの先生
が人事労務問題で大いに苦心します。人事労務問題の悩みを少なくするためには、次の
3つの要件を実現しなければなりません。
人事労務管理のポイント
・院長先生自身がしっかりした経営ビジョンのもと、リーダーシップを持つこと。
・素直で有能な職員を確保すること。
・きちんとした人事労務管理体制を整備運用すること。
しかし、実際には、この3つ要件を完璧に実現することは非常に難しいですが、少し
でも近づくように努力することが、人事労務問題のポイントになります。
募集、面接、採用に約2ヶ月の期間を用意してください。1回の募集では必要とする人材が
集まらないこともあります。また、看護師などの資格者の求職者は応募者が少なく2回募
集が可能な期間を用意することが大切です。応募方法としては、個人的な人脈、ハロー
ワーク、折り込みチラシ、 求人雑誌、ナースバンク、などがあります。個人的な人脈や
ハローワークは無料なので必ず利用すること。但し、ハローワークやナースバンクは中
高齢の登録が中心なので、若い年齢層のスタッフを採用するには、折り込みチラシや
求人雑誌を利用した方が良いです。その場合、トップブランドの媒体機関を利用すること
がポイントになります。開業場所が大都会の場合は、「とらば−ゆ」、地方都市や郊外で
ある場合は、「アイデム」がよいでしょう。募集内容での注意事項は、賃金は広告媒体
機関から相場を聞き、それより若干高めにすること。キャッチコピーとしては、「自院の
特徴」、「暖かい」、「明るい」、「きれい」、「働きやすい」、など、心を揺さぶるコピー
が大切です。
面接を進めていく上で先生に必要な心構えは次の3つです。
1.相手の本音を引き出し、限られた時間の中で人物を見抜くこと。
2.応募する側も先生を面接しているということを念頭におき対応すること
3.応募者が今後患者さんとして来院されることもあるので、
自院のイメージダウンにつながるような対応はしないこと。
面接時における応募者に対する判断は、面接者の主観で大きく左右するので、客観的な
視点を保つために、面接者は複数人でおこなうことが必要です。質問事項は事前に文章
化しておき聞き忘れないようにすること。また、先生の医療理念、経営方針、求めている
スタッフ像、賃金、勤務の体系とその内容、勤務時間、休日、社会保険の充実度などは
必ず質問や会話に出てきますので、あらかじめ文章化し、曖昧な回答にならないように
しておきます。できれば就業規則の素案を用意し、これに基づき説明すると開業後も大き
な誤解も起こらずにすみます。採用基準は、チームワーク、マナー、能力の3つの視点を
重点にします。具体的には、次の通りです。
職員の採用基準
1.目や服装に清潔感があること
2.職歴に一貫性があり、1箇所あたり3年以上勤めていること
3.前職を辞めた理由、転職した理由が前向きであること
4.何ができ、何をしていきたいのかがはっきりしていること
5.職員との協調性が見込めること
6.当医院で働きたいという意欲があること
なお、採用者が決定したら、入社誓約書に署名をしてもらい、取りやめがないように
しておくことも大切です。
診療所は少人数の職場であるため、スタッフの一人一人の働きぶりや対応の仕方が
診療所の評価を大きく決定します。しかしながら、診療所の規模や労働条件から、最初
から優秀な人材を確保することが困難なのが現実です。そこで、開業前からその診療所
のイメージに合わせた対応を可能とするスタッフ教育を行い、レベルアップしておくことが
必要となります。
診療・経営方針の共有化
どのような診療・経営方針をもって地域医療を行っていくのか院長の考えをしっかりスタッフ
に周知徹底することが肝心です。先生の方針がスタッフに十分理解されれば、患者さんへの
対応、院長とスタッフとの連携などとるべき具体的なイメージがわかってきます。
面接時においてもしっかり説明しておくことが不可欠と言えます。
開業前の予行練習
診療所勤めが初めてのスタッフなどには先輩の診療所などを見学させ、患者さんとの接し方、
電話での対応、事務処理など実際に肌で学習させてもらうとよいでしょう。また、接遇コン
サルタントのもと、自院で疑似体験して、あるべき接遇の仕方や仕事の流れを指導してもらい
スタッフ全員で確認しあっておくと、安心して開業の日を迎えることができます。